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第17号
最新医学論文17
A negative regulator of MAP kinase causes depressive behavior.
Duric V, Banasr M, Licznerski P, Schmidt HD, Stockmeier CA, Simen AA, Newton SS, Duman RS.
Nat Med. 2010 Nov;16(11):1328-32.
(Comment:Akbarian S, Davis RJ.Keep the 'phospho' on MAPK, be happy.Nat Med. 2010 Nov;16(11):1187-8.)
うつ病のうちでも症状の重い大うつ病性障害(Major Depressive Disorder:MDD)は、生涯有病率が約16%にもみられるありふれた病気であり、経済的な負担も大きいことから、最も深刻な神経疾患の一つである。しかしながら現在まで、MDDの病態についての細胞レベルや遺伝子レベルでの詳細な解明は進んでいない。
今回、米国エール大学精神科のDuman博士らのグループは、マイクロアレイ法などによりヒト死後脳組織の全ゲノム発現プロファイリングを行い、海馬のCA1領域および歯状回におけるMKP-1の遺伝子発現が、MDD患者では著しく増加していることを見いだした。
MKP-1は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)に対するホスファターゼの一つであり、またタンパク質のスレオニン残基とチロシン残基の両方の脱リン酸化を行う、いわゆる二重特異性ホスファターゼとしても知られている(別名dual-specificity phosphatase-1: DUSP-1と呼ばれる)。その働きは細胞内シグナル伝達系の一つであるMAPK経路を負に調節する因子として機能することである。ちなみにMAPK経路は、ニューロンの生存調節や可塑性などに関わる細胞内の主要なシグナル伝達系である。
そこで博士らは、MKP-1遺伝子発現とうつ病との関係について、ネズミを用いて実験を進めた。ネズミをストレスにさらすと、抑うつ状態に似た行動パターンを示すとともにMKP-1遺伝子発現が増加することを確認した。またMKP-1遺伝子を直接海馬に導入してMKP-1蛋白の発現を増加させると、やはり抑うつ行動が引き起こされることを見いだした。一方、抗うつ剤投与を行うと、ストレスによりうつ病様の行動の改善がみられた事と平行し、MKP-1発現が正常となった。
さらにMKP-1欠損マウスでは、MKP-1 が少ないわけで、そのマウスでは、砂糖水をよく飲むなど、快楽的状態が出現しており(鬱の反対)、ストレスの影響をあまり受けなかった。
以上のヒト脳および動物モデルをもちいた研究結果より、プロテインホスファターゼの一つであるMKP-1がうつ病治療の新たな治療標的となりうることがわかった。
自閉症と関連が内とは言えないので、それに関しては今後の問題である。