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発達障がい市民広場

第5号

最新医学論文5

幼少期に受けるストレス反応は、ニューロンにおけるDNAメチル化プログラムを変化させ、バソプレッシン遺伝子の発現を増加させる

Dynamic DNA methylation programs persistent adverse effects of early-life stress Murgatroyd et al.,

Nature Neuroscience Published online:8 November 2009

神経系がまだ発達途上にある幼少期にストレスを受けると、その後長きにわたり生理機能の変化や抑うつ状態などの行動変化を伴うことがある。ストレス反応には、視床下部の室傍核で産生されるバゾプレッシン(AVP)というホルモンが深く関わっていることが知られており、今回独マックスプランク研究所のスペングラー博士のグループは、この幼少期ストレス反応(Early-life stress:ELS)のメカニズムについて、バゾプレッシンをコードする遺伝子に注目して解明を試みた。

まず生後まもない幼若マウスを母親から引き離す操作により幼若マウスにストレスを誘発し視床下部にある室傍核のバゾプレッシン遺伝子mRNAの発現を調べたところ、幼若期ストレス(ELS)マウスでは対照群に比べてバゾプレッシンのmRNA発現の増加がみられた。そこでなぜmRNA発現が増えるのかについて、さらにDNAのレベルでの検討を行った。一般にDNAの転写調節にはDNA上のCpG島という部位が関わっており、CpG島のDNAがメチル化を受けると転写効率が下がり、逆に脱メチル化されると転写効率が上がることが知られている。

同研究グループは、ELSマウスでは、バゾプレッシン遺伝子をコードするDNAのCpG島でのメチル化が、(MeCP2というDNAメチル化に関わっているタンパクのリン酸化が増強するために)抑制され、結果としてバゾプレッシンのDNA転写効率、続いてmRNA発現が増加、そしてバゾプレッシン量が増加することをつきとめた。論文は遺伝子の構造上の変異でなく,機能的な変化がバゾプレッシン発現量に関係する事を丁寧な実験でみている。正常な(遺伝子変異を持たない)人にストレスが長期にわたり影響する事を説明できるとしている。