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発達障がい市民広場

第46号

最新医学論文46

社会的および心理的ストレスにより生じるサイクリックADPリーボースと熱はCD38とTRPM2を介して、オキシトシンの遊離を制御する

Cyclic ADP-Ribose and Heat Regulate Oxytocin Release via CD38 and TRPM2 in the Hypothalamus during Social or Psychological Stress in Mice.

Zhong J, Amina S, Liang M, Akther S, Yuhi T, Nishimura T, Tsuji C, Tsuji T, Liu HX, Hashii M, Furuhara K, Yokoyama S, Yamamoto Y, Okamoto H, Zhao YJ, Lee HC, Tominaga M, Lopatina O, Higashida H

Front Neurosci. 2016 Jul 22;10:304. doi: 10.3389/fnins.2016.00304.

論文の意義

自閉スペクトラム症児ではインフルエンザなどの発熱時に社会性行動障害が一時的に改善し、平熱に戻ると自閉スペクトラム症状が表出するというケースレポートがある(Megremi AS.,2013)。この理由はいろいろ推察がなされているが、体温上昇によるTRPM2活性化に起因するOT遊離が社会性行動障害を緩和するとされ、自閉スペクトラム症の症状への新しい考え方や治療戦略が可能となる。

詳細

オキシトシン(OT)は相手との交流(社会性)などの感情の変化など様々な刺激で脳内に分泌され、中枢性に不安やストレスに対する応答を軽減する役割(anxiolytic effect)を担っていると考えられている。OT分泌がどのような分子メカニズムによって制御されているかについては膜電子依存性カルシウムチャネルによるカルシウム流入が基本ではあるが、疑問点が多く残されている。例えばOT分泌には温度依存性があることが古くから知られており、発熱時に分泌が増加するが、発熱時の体温上昇によってどのようなメカニズムで脳内への遊離が増加するかはよくわかっていなかった。

CD38はADP-ribosyl cyclase活性を持つ膜タンパク質であり、視床下部においてOT受容体刺激で活性化しβ-NAD+からcyclic ADP ribose (cADPR)を産生する。我々は、このcADPRが小胞体に存在するリアノジン受容体チャネルに作用し細胞内Ca2+濃度を増加させることによってOTニューロンにおいて脱分極刺激がなくてもOT分泌が亢進することを示した(Jin, Higashidaら, Nature, 2007)。一方、cADPRのようなβ-NAD+代謝産物は、視床下部において体温に近い(暖かい)温度で活性化するイオンチャネルに作用し生体の温度調節への関与が示唆されているが、そのイオンチャネルの分子実体は不明であった。

一方、体温維持のために、視床下部神経が体温を感じて体温調節する“サーモスタット(温度を一定に保つための装置)”として機能していると考えられており、体温を感知するためのセンサーが必要であるという仮説のもとに、Songら(Science, 2016) のグループは、体温調節中枢である視床下部の神経細胞に温かい温度に応答する神経集団を見出し、これらのニューロンにおいてTRPM2チャネルが発現しており、体温温度を感じるセンサーであることを突き止めた。

TRPM2ノックアウトマウスは、通常の飼育環境下において体温は正常であったが、発熱を起こす物質で体温を上昇させた時に体温を低く維持できなくなっていた。さらに、彼らは薬理学的に特定の神経のみを活性化または活性抑制をすることができるDREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug)システムを用いて、TRPM2を発現する視床下部神経の活性調節を行った結果、TRPM2を発現する視床下部神経を活性化させると体温は低下し、一方、活性を抑制させると体温は上昇することを示した。結局、TRPM2チャネルが視床下部において深部体温をモニターしているという新しい知見がごく最近加わった。

TRPM2は富永らによって温かい温度においてcADPRで活性化されることが明らかにされていた(Togashi et al., EMBO J. 2006)。今年2016年、我々はSong 達とは独立に、TRPM2が視床下部OTニューロンで、スtpレスなどの発熱時にOTが遊離されるときの温度感受性イオンチャネルの分子実体がTRPM2ではないかとの仮説の下、摘出した培養視床下部組織を用いた薬理学的手法、CD38KOマウスを用いたin vivo解析等を用いて検証を試みた(Zhong, HigashidaらFront. Neurosci., 2016)。その結果、TRPM2が発熱時におけるCD38を介したOT分泌増加に関与することが示した。