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発達障がい市民広場

第33号

最新医学論文33

自閉症で男性が多い説明としての女性の保護因子について

Examining and interpreting the female protective effect against autistic behavior

Robinson EB, Lichtenstein P, Anckarsäter H, Happé F, Ronald A
Proc Natl Acad Sci USA, 2013 [Eub ahead of print]

(論文)http://www.pnas.org/content/early/2013/02/13/1211070110.full.pdf+html

(論文)http://www.pnas.org/content/early/2013/03/07/1301602110

精神医学の臨床から
  • 有病率の性差が明瞭なのは
    自閉症 男>女
    選択性緘黙 女>男
    10歳代発症の双極性障害 女>男
  • 重症度の性差が明瞭なのは
    自閉症 女>男
  • 社会適応の困難さの性差があるのは
    統合失調症 男>女
はじめに

ASDが女性に少ない理由は分からない。
しかし、近年、まれな遺伝要因がASD女性をより大きく、強く害していることが示唆されている。

  • Neuron, 2011; 70: 898
    女性にASD症状を引き起こすには、まれなde novo CNVがbiological network of genesをより強く攪乱する必要がある。
  • Neuron, 2011; 70: 886
    ASD児と非ASD児のいる家族で、genomic CNVを調べた。
    女性はASDの遺伝要因に対する抵抗性を有している。

女性性の中にはfemale protective effectがある?

  • Nature, 1997; 387: 705
    父由来のX染色体を有するTurner症候群は社会適応が良い。
    母由来のX染色体を有する男性は、ASD脆弱性がある?

一般住民を対象とした同胞研究は、遺伝と環境の両者を検討できるので有用である。

  • 一般住民において、ASD傾向は連続量である。
    0からASDまで。
    Arch Gen Psychiatry, 2011; 68: 1113
  • ASDとASD傾向の危険因子は似ている。
    Am J Med Genet B, 2011; 156B: 255
  • ASD傾向得点高値の発端者の親族は、低値の親族よりも、ASD傾向得点が高い。
    Arch Gen Psychiatry, 2012; 69: 46

女性にASDを発症させるために必要な親族内-病因量(familial etiologic load)が大きいのならば、女性ASDの親族の方が大きな危険因子を持つだろう。

女性ASD発端者の親族のASD傾向得点は高い。

方法
  • Twins Early Development Study(TEDS)
    イギリス、3842組
    ASD傾向評価:12歳時に養育者がChildhood Autism Spectrum Test
  • Child and Adolescent Twin Study of Sweden(CATSS)
    スウェーデン、6040組
    ASD傾向評価:9歳と12歳時にA-TACという養育者への電話面接

両者ともdizygotic twins、染色体異常や出生時障害を除く。

本研究は、
 TEDSとCATSS、あるいはTEDSとCATSS合併
 自閉症傾向得点の90‰と95‰
それぞれで解析し、結果が同じことを確かめているが、本日はTEDSの90‰の結果のみを記す。

統計方法および結果
  1. 女性発端者と男性発端者の同胞の自閉症傾向得点
  2. 発端者の同胞が閾値を超える確率
    Mantel-Haenszel risk ratio
    女性発端者の同胞が閾値を超える確率は、男性発端者の場合の、1.50倍であった。
    同胞の性は有意でなかった。
考察
  1. 二つの大規模対象の結果が同一。
  2. 女性のASD傾向は、大きなfamilial etiologic loadと関連。
    別の言葉では、男性は小さなloadで臨床閾値に達する。
結果の別の説明
  1. 男性と女性のASD傾向に寄与する遺伝環境要因が別々。
    →発端者の性によって同胞の発症危険率が異なることを説明しにくい。
  2. 自閉症傾向測定法が男性において兆候を捉えやすく、女性はより重篤にならないと捉えられない。
    →今回、女性の自閉症傾向得点は高くなかった。

問題点:自閉症傾向の判定が対象者の直接観察ではない。

結論

Female protective effect仮説の検証は、ASDの病因と症状の多様性を考慮すると、簡単ではないが、genetic association studyを企画し、考察する際に意味がある。

女性が有利であることの生物学的な本態の解明は、ASD症状の理解の助けとなり、予防要因の同定につながるだろう。

Werling DM, Geschwind DH
Commentary: Understanding sex bias in autism spectrum disorder
Proc Natl Acad Sci U S A, 2013 [Eub ahead of print]

… genetic studies of families with affected females or case-control analyses of female samples may facilitate identification of variants of relatively high penetrance compared with those found in male-focused samples … .