金沢大学

脳の個性研究基礎部門

統合失調症は若年期の代表的な精神疾患で、世界各国共通に人口の約1%が罹患することが知られており、胎児期から青年期にかけての脳内の神経回路の発達の障害が発症に関与していると想定されています。統合失調症では、注意や思考などの認知機能の低下が発症前から慢性的に持続し、患者さんの自立や社会復帰を妨げる最大の原因となっています。そこで我々は、認知機能障害の脳内メカニズム解明する研究を行っており、それを有効な治療法や予防法の開発に役立てたいと考えています。

ヒトの認知機能は、脳内、特に大脳皮質の神経ネットワークにより担われていますが、ネットワークを構成する複数の皮質領域間の機能的な連携は、それぞれの領域で生じる周期的神経活動(オシレーション)とその領域間の同調によって担われています。統合失調症の患者さんでは、オシレーションの変化が多く報告され、認知機能低下に関係していると考えられています。

大脳皮質の神経細胞には多くの種類がありますが、その中でもオシレーションの形成に特に重要なのが、パルブアルブミンという物質を発現する特殊な神経細胞(図の緑色の細胞, パルブアルブミン細胞)です。この細胞は、周囲の多くの神経細胞(図の水色の細胞)に強力なシナプスを作りその活動を同期させることで、オシレーションの形成を担っています。

我々はパルブアルブミン細胞に着目し、その統合失調症における変化を調べてきました。KCNS3は、パルブアルブミン細胞の膜に存在し、細胞の中と外をつないでカリウムイオンを通す穴(チャネル)を構成する蛋白質の1つです。KCNS3が構成するチャネルは、パルブアルブミン細胞の興奮性を調節することで、他の神経細胞活動の同期化を促進し,オシレーションの形成に役立っていると考えられます。我々は最近、米国ピッツバーグ大学精神医学部門との共同研究から、統合失調症の大脳皮質パルブアルブミン細胞ではKCNS3の発現が低下していることを発見し、統合失調症におけるオシレーションの変化と認知機能障害のメカニズムである可能性を提唱しました(図)。

今後は、統合失調症におけるKCNS3の発現変化の詳細をさらに調べると同時に、遺伝子操作でパルブアルブミン細胞でのKCNS3の発現を低下させたマウスを使って、脳内のオシレーションや認知機能の変化を調べ、新規治療法の開発に役立てたいと思います。

センターオブイノベーションプログラム 連合大学院 子どもみんなプロジェクト 国立成育医療研究センター子どもの心の診療ネットワーク事業 東田陽博研究室

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